49人が本棚に入れています
本棚に追加
群れの中央に最初に見えたのは、黒い駒を掴んだ真っ白な指。
みんなが取り囲んでるのは、チェス盤の上で駒が遊んでるテーブルと、テーブルを挟んで向かい合う二人。その片方、黒い駒を動かしてる方は、やっぱり真白君だった。白い駒の方のプレイヤーは、チェスサークルの部長さんらしい。
ボードゲームに疎い私にも、戦況だけはすぐ掴めた。真白君が無表情に色んな駒を動かしていくのに対して、部長さんは頭を掻いて「あー」とか「やべっ」とか言いながら、一つの駒しか動かさないから。
頭に十字架を乗せた白い駒が、黒の大群に追われてる。あの狙われてる駒が多分王様だ。取られちゃいけない"心臓"だ。
追跡をかわしては、また黒の兵に距離を詰められていく、孤独な白の大将。
その逃げ戦も長くは続かなかった。白い手に操られた黒い王様が、軽やかに白い王様の正面に立つ。
「チェックメイト」
淡泊な声がトドメの言葉を放った。
「ちっ……くしょーっ! 参りましたぁっ!」
そう言って悔しそうに頭を下げたのは、部長さんの方で。
その直後、周りからは歓声と拍手が沸き起こった。その空気に圧されて、私もつい拍手を贈ってしまう。
「真白君、勝っちゃったね……すごいねぇ」
私は理沙ちゃんに話しかけたつもりだったけど、何の反応も返ってこない。
横を見ると、理沙ちゃんは、真白君の方を見たまま動かない。
あ、だめだ。顔がぽーっとなっちゃってる。惚れ直したかな、こりゃ。
最初のコメントを投稿しよう!