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そういうことか。真白君が頑張ってたの、この笑顔の為だったんだ。
和らいだ空気に、私まで口元が綻んだ。
「よかったねぇ、理沙ちゃん。真白君が他の女の子に声かけられて遊んでたわけじゃなくて」
「や、弥生ちゃんっ!」
「むぐっ!?」
すごい早さで伸びてきた理沙ちゃんの手が、バッと私の口を塞ぐ。困ったような顔全体が、弱々しく曇る瞳が、赤い。
その勢いにびっくりしたけど、びっくりしたのは私だけじゃないみたいで。
「……りっちゃん、そんなこと気にしてたの?」
棘が剥がれ落ちてた真白君の瞳も、きょとんとしていた。
「だから約束破ってここまで来たの?」
「…………ん」
うつむいた理沙ちゃんは、短い声だけ出して頷いた。装飾のない耳も真っ赤に染めて。
すると、私の口を塞いでた手を、白い手がやんわりと剥いだ。二人の指がそのまま絡まる。
「こんな格好してるのは、何で?」
「何でって……模擬店で、みんなでこういう格好するって決まったから……」
「僕、教えてもらってなかったけど。それ」
「え? あれ? 言ってなかったっけ? ご、ごめんなさい……」
一瞬は顔を上げたものの、理沙ちゃんは自信がなさそうに、おろおろとまた顔を下げた。
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