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「あの、ごめん……なさい」
もしかしたら年上の人かも。咄嗟にそう思って敬語を付け足す。
「さっき中庭でスマホ落としましたよね? その時にあなたが拾ったの、多分私の物で……こっちがあなたのスマホじゃないですか?」
「え……」
私がスマホを差し出すと、またちょうどいいタイミングで短い音が鳴った。それを受け取って画面を見た彼女は、すぐに慌てた様子で鞄からスマホを取り出して、私に差し出してくれた。
「ごめんなさいっ! 私確認もしないで……」
「あ、いえいえ。こちらこそ、いきなり声かけて驚かせちゃってごめんなさい」
恐縮する女の子にできるだけ柔らかい声で答えながら、私も受け取ったスマホの電源ボタンを押す。
浮かび上がってきたのは、お気に入りフォルダに収めた画像の中でも最高の瞬間が撮れた、眩しすぎるほど満面の笑顔の律君。よしよし、間違いない。今度はちゃんと本物だ。
密かに胸を撫で下ろすと、今度は私のスマホも鳴った。画面を見た瞬間に浮き足だった私は、即行で通話に応じる。
「はーいっ、もしもしっ! 律君?」
『ああ、うん。俺』
機械越しに通じる大好きな人。
だけど、心の隅っこに、漠然とした不安が芽生える。思いっきりテンションを上げた私とは裏腹に、律君の声は硬かった。
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