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「……どうしたの? そろそろ会えそう?」
『悪い……それが、もうちょっとかかりそうなんだよ。今ゴタゴタしてて……』
「え……もうちょっとって、どれくらい?」
『わかんねーけど……なんか、もしかしたら長引くかも……』
「そうなんだ……」
まだ会えない。一瞬は浮かれた気持ちが、みるみる内に萎んでいく。
だけど、それを声に滲ませたくなかった。スマホ越しに届く律君の声も暗かったから。
上げた視線の先に、真っ青な空が広がってる。鮮やかに澄んだその青へ、小鳥が勢いよく羽ばたいた。落ちてくる鳴き声は、まるで私を励ましてくれてるみたいで、私は得意の笑顔を作れた。
「ねぇねぇ、律君っ。用事が全部済んだら、一緒にクレープ食べに行きたいなぁ」
『クレープ……? ああ、好きなだけ食っていいぞ。いくらでも奢ってやる』
「本当? あ、せっかくいい天気だから、色んなもの買って、中庭のテラスで食べたいっ」
『お、いいな。風も強くないし、あそこなら景色もよくて気持ちいいもんな』
「うんうんっ。それから……噴水の前で、久しぶりに、一緒に写真撮りたいな」
『そんなのいくらでも。なんなら動画撮るか?』
「あはは、それも面白いかもねっ」
私がワガママを重ねる内に、律君の声も弾んできた。よかった。これが正解みたい。
「律君。何奢ってもらうか、私もゆっくり考えて決めたいから、全然急がなくてもいいよぉ」
『……ありがとな。弥生』
ズキズキと胸に響く、優しいお礼の言葉。
「どういたしまして」なんて明るく返せる自信がなくて、「待ってるね」とだけ短く残して通話を切った。
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