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「おい、結菜。いい加減にしろよ」
急に温度を下げた声に、私の肩はビクッと上がってしまった。
さっきまでは温厚な雰囲気をまとってた奏さんが、厳しい目つきで結菜さんを見据えた。
「俺らだけならまだいいけどな、関係ない弥生ちゃんまで困らせてんじゃねぇよ」
「いえ、私は全然っ……」
「ごめんな。ちょっと黙っといてくれる?」
「はいっ!」
柔らかい口調ながらも怒りを潜ませた奏さんの命令に、私は背筋を正して従ってしまう。
一見ヤンチャしてそうな奏さんの顔は、今ものすごく怖い。冷え冷えとした真白君とはまた違う、今にも爆発しそうな迫力に満ち溢れてる。
「俺のこと、迷惑なら迷惑でいいし、きっぱり振ってくれていい。気に障ったことしたんなら謝る。でもな、何がそんなに気に入らねぇのか、泣いてるだけじゃこっちだってわかんねぇよっ!」
「ショックだったのっ!!」
容赦なく詰め寄る奏さんに、結菜さんが叫ぶように答えた。その勢いに、奏さんの方が一瞬怯んだ。私も怯んだ。
「奏の気持ちは嬉しいけどっ……でも、それ以上に、ショックでっ……ちょっと、期待しちゃってたのも、すごく恥ずかしくて……」
「は? それ何のこと……」
「見つけたっ! 奏さんっ!」
口を挟めずに固まる私の後ろから、なだらかな風と一緒に吹き込んだ。私じゃない名前を呼ぶ、力強い声が。
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