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一瞬だった。瞳の底がじんわり濡れて、耳の奥は重く震えて、胸の熱は急に上がって、苦しくて。振り返ると、それだけで視界が眩しくなる。
一瞬で、周りのもの全部に息が吹き込んだ。
ペーパーバックを片手に息を切らして立ってるのは、私がずっと会いたかった人。
「律君っ! 何でここに!?」
「え、弥生? え……え? そっちこそ、何で奏さん達と一緒にいるんだ?」
喜びと驚きで混乱する私に、手を後ろに隠した律君も、ビックリしたように目を丸めてた。
「私はその、さっき偶然結菜さんとぶつかっちゃって、その時にスマホが入れ替わっちゃったから、慌てて追いかけてきてここまで……」
「そうなのか? ぶつかったって、怪我は?」
「あ、それは大丈夫。お互い無傷だったから」
「なんだ、そっか……よかった」
少し力を和らげて微笑う律君の瞳を前に、私は泣きそうになってしまう。
律君は、やっぱりズルい。会って一分も経たない内に、もう私の心を満たしちゃうなんて。
「そ、そういう律君こそ、何でここに?」
「俺は奏さんと結菜さん捜してて。さっき奏さんがここにいるって電話で教えてくれたから、それで来たんだ」
「そうなんだ……」
ってことは、さっき奏さんのスマホを鳴らしたのは律君だったんだ。そのすぐ後に、私に電話してくれたんだ。
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