奏さんと結菜さん

10/15
前へ
/60ページ
次へ
「いきなり逃げたりして、変な態度ばっかり取っちゃって……でも、奏には悪いけど……私、本当に、ショックだったから……」 「それ、さっきも言ってたよな。何がショックだったんだ?」 「……私を呼び出したのが……本当は、奏だったこと……」  涙が乾いてない瞳で、結菜さんが見上げた。奏さんじゃなくて、律君を。 「……『話があるから』って呼び出された時ね、ちょっとだけ自惚(うぬぼ)れちゃったの。もしかしたら彼女と別れたのかもって……」  匂いのない風だけが、緩やかに飛んでいく。 「私……ずっと、律のこと好きだったから……」 「えぇぇぇぇ!?」  誰よりも先に、私が大声を上げてしまった。だって我慢できなかった。 「ゆ、結菜さん、律君のこと……!?」 「うん……ごめんね。弥生ちゃんがいるのは知ってたし、二人の邪魔しようとかは思ってなかったんだけど……惹かれていくの、止められなくて……」  涙を抑えた結菜さんの声が、また揺らぐ。 「だから、律が私を呼び出したの、奏の為だったんだって知った時……すごくショックだった」  そこまで聞いて、やっと流れを理解した私は、言葉に詰まってしまった。
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!

49人が本棚に入れています
本棚に追加