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私達の元へ駆けつけてきた男の子は、真白君の肩をがっちり掴んだ。
「やっほー、真白君っ! 今、暇? うちのサークルの模擬店寄っていかね?」
「暇じゃないから寄っていかない」
「えーっ! ちょっとくらいいーじゃんっ」
「嫌だ」
「うう、相変わらず素っ気ないっ……!」
すっかり温度を消しちゃった声に誘いをはね除けられたその子は、しおしおと項垂れた。全身から悲愴感が漂う、昔から変わらないその反応に、私は苦笑いしてしまう。
「相変わらずだねぇ、孝太君……」
「ん? あ、弥生ちゃんっ! 久しぶりっ!」
声をかけると、すぐに私に気付いて笑ってくれた孝太君。真白君同様、孝太君も律君の友達で、子どもの頃から私ともよく遊んでくれた。
でも孝太君は、次の瞬間には目を丸くして、私と真白君を何度も交互に見ると、雷に打たれたような表情で固まった。
「あれ? えっ……暇じゃないって、まさか真白君、弥生ちゃんとうわきっ……!」
余計な単語がはっきり言葉になる前に、凄まじい音が辺りに響いた。
孝太君の顔の真横。校舎の硬い外壁を、真っ白な左手が叩きつけていた。
「……ごめんね? 目障りな虫が鬱陶しくて」
孝太君を見上げて、静かに微笑む真白君。
壁から離れたその手のひらを、潰れた何かが汚してる。そんな汚れは物ともせずに輝き続ける薬指。私は思わずゾッとした。
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