事情 side遼太

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 校門の外に菊乃が立っていた。夕焼けに染まる景色を背にした姿はあまりにも綺麗で、不覚にも一瞬見惚れてしまい頭を振った。 「遼太、急にごめんね」 「いや、ちょうど帰るとこだったから構わない」 「この辺じゃ、遼太嫌だよね? 少し遠くに行こうか?」 「そうだな」  うーん、車じゃないからな、と大通りを見ると、交通量が多くタクシーが拾えそうだった。 「遼太」  通りをゆっくり歩きながら空車を探す俺に、菊乃が話しかる。 「どうした?」 「2人きりになれるところがいい……」  以前なら迷わずホテルに入ったが、あの一件以来、俺はひより以外の女とは絶対に寝ない、と決めた。  ならば、と考えて、個室がある馴染みの料理屋で手を打った。  菊乃が俺のグラスにビールを注ぎながらクスリと笑った。 「ホテルじゃないの?」 「菊乃さん、身体を安売りしてはいけません」
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