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幾度も抱いた身体なのに、かなり動揺していた。手の行き場に困り、とりあえず背中を優しくポンポン、と優しく叩く。
「後生だから……抱いてよ……」
俺は目を閉じた。
危うく〝一度だけなら〟なんて盛り上がる寸前だったもう一人の自分を殴り飛ばし、とにかく冷静になれ、と言い聞かせた。気持ちを落ち着かせる為に深呼吸をし、声を出した。
「ごめん、菊乃。それは出来ない」
ひよの為の決意を覆らせたら、本物のクズだ。
長い沈黙があった。フワッと動いた菊乃が、俺の首筋にキスをした。かなり長く……あっ、またやったな!
「菊乃!」
俺が声を上げるのと菊乃が離れるのはほとんど同時だった。
「イーだっ! 悔しいから付けちゃったからっ!」
パッと俺から離れた菊乃は小さく歯を見せる表情をし、また何事もなかったように食事を始めた。
な、なんだったんだ。
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