あたしが見たものは

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「遼太はこんな場面でも強かったな」  パパが呼ぶ〝遼太〟はいつも、まるで本当の息子を呼んでいるみたいに愛情がこもってる。遼ちゃんに一番最初に野球を教えたのはパパだったからね。 《8回まで無失点の好投を続けてきたピッチャー緒方が9回表まさかの乱調4失点で逆転を許しその差2点! サヨナラのチャンスで女房役平田――!》  画面にはベンチで肩にタオルを掛けてうなだれる緒方さん。遼ちゃんの親友――そして、バッターボックスで構える遼ちゃん。  緊迫した雰囲気に、あの日この目で実際に観たのに、結果が分かるのに、ドキドキする。  それは小さかったあたしのあの時の興奮とはまったく違う。その、あまりにもカッコイイ姿にあたしの胸は張り裂けそうだった。  あたしとパパは、今まさにライブで観ているかのように「がんばれっ」とテレビの前で両拳握っていた。  キィ――……ン、と甲子園の上空に広がっていた青空に響き渡った快音。 《打った―――――!》  アナウンサーの興奮の実況が、耳をつんざく。 《入った! 入った! 入った――――! 逆転満塁サヨナラ――……》  遼ちゃんは高々と拳を掲げて、白い歯を見せ眩しい輝く笑顔でダイヤモンドを駆け抜ける。
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