あたしが見たものは

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 パパもあたしも、手を叩いて万歳しちゃった。結果、分かっててもドキドキしちゃった。 「高校3年間緒方君ばかり注目を浴びて、遼太はあまり……だったな。でも遼太はそんな事には少しも腐ったりせず、いつも緒方君を立てて影の女房役に徹してたんだ」  パパは遼ちゃんの話になると止まらない。 「遼太の方がずっといい選手だったとパパは思っていたよ。遼太は優しすぎたんだろうな」  画面では、ベンチ前で仲間と喜び、ピッチャーの緒方さんと抱き合う遼ちゃん。その眩しい笑顔に胸がキューンと痛んだ。  あたしは、高校生の遼ちゃんを、知らない。思えば、一番疎遠になっていた空白の3年間なんだね。  ふと、あたしの頭の中に浮かんでしまった。 〝あの人〟は、知ってるんだ、って。 〝あの人〟が知る遼ちゃんが、そこにいる――。 「パパ、あたし着替えてくるね……」  あたしはもう、それ以上は観られなかった。
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