母宛の手紙

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 この手紙を読んでおられる和子様は、この本木康子とは何処の何某かとお思いでしょう。 一郎さんと私が出会ったのは、かれこれ四十年前、私が大学3年生の時でした。一郎さんは私が所属した研究室の助手でした。右も左も分からない私を何かと気にかけてくれた一郎さんに私が恋心を抱くまで、そう時間はかかりませんでした。    一郎さんは就職して二年目にドイツの研究所に留学することになり、私達の遠距離恋愛が始まりました。近況を伝え合っていた手紙の間隔が徐々に長くなってきた頃、久しぶりの彼からの手紙には、在独の日本人バイオリニストとお見合いした上に相手の方が妊娠したことが記されておりました。  言葉にはしなかったものの結婚することが当然と心のどこかで思っていた私は、絶望し目の前が真っ白になりました。   ところが、それから五年後、彼がご家族と永住帰国したことを機に、焼けぼっくいに火がついてしまったのです。  
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