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間接照明で浮かび上がる、味気のないロビー。
外が明るいせいか、白んでみえる。
空室状況が表示されたパネルがあった。
こんな時間のせいだろう、空いている部屋のほうが多い。
しかし駕木にとっては、こんな時間から数部屋埋まっていることのほうが衝撃であった。
香坂が使用する部屋のボタンを押すと、受取口に鍵が落ちてきた。
香坂は鍵を拾い上げると、エレベーターのボタンを押した。
動作があまりに自然で、ここには何度も来ているのかと勘ぐってしまう。
芸能界のお嬢様ともなれば、裏の仕事というものがあるのかもしれない。もしかすると、いま目撃してしまったのは、業界関係者なのでは? まさか海外からきた要人の接待に――などとめくるめく妄想が、浮かんでは消えていく。
室内は狭く、ほとんどダブルベッドが占めていた。ベッドの向かいにはテレビが壁に掛けられ、あとは化粧台と、荷物置き用の棚や椅子があった。
ビジネスホテルには泊まったことがあるが、あまり変わらないなと駕木は思った。
「お風呂も観てみる?」
物珍しそうにしている駕木に興が乗ったのか、香坂は浴室の扉も開けた。
「わぁ」
うっかり声が漏れる。
浴室は広く、浴槽もふたりで入ることができる設計になっていた。床面は石造りで、淡い照明に凹凸が映えた。
コトン、と音が聞こえたので、寝室へ顔を向けると、香坂は荷物を降ろして、化粧台にサングラスを置いたところであった。
まごうことなき、香坂の顔である。学校中の男子が、その一挙手一投足に注目している香坂が、ふたりっきりの空間にいて、こちらに視線を向けている。
そしてこの部屋には、ベッドしかないのだ。
幾多の人々が、褥を絡ませてきたベッドである……
ごくり、と生唾を呑む駕木。
あり得ないことだとは思っていても、心臓がバクバクと脈打つのは抑えようがなかった。
そんな駕木をみて、香坂はふうとため息をつくと――
おもむろにブラウスのボタンを外しはじめた。
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