#1 同級生なんてこわくない

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「ちょ、香坂何やって――」  軽い悲鳴をあげる駕木に、香坂は動きを止めると、 「あら、駕木くんはこっちは嫌い? じゃあこっち?」  といって、バッグから財布を取り出して見せるのだった。 「いやいやいやいや、どっちでもないから――」  切羽詰まった駕木だったが、それでも苦し紛れに断りを入れる。  香坂は飽き飽きした素振りで、 「高校生って面倒ね。変に正義感があるから」  と財布を投げると、駕木に詰め寄った。  愛くるしい香坂の瞳にみつめられて、駕木も動けなかった。 「さあて、駕木くん。ナニしましょうか?」  冗談とも本気ともつかぬの物言いで、駕木の頬にそっと手を掛ける香坂。 「こ、ここに来たら、話してくれるんじゃなかったの?」 「そんなの口実に決まってるじゃない」 「おーっと、そうきたか……」  にじり寄られて、もう身体が触れそうになっている。 「わたしとここに来て、なにもしないで帰る気?」 「もちろんそのつもりだけど……」 「ここにくるまで、エッチな想像もしなかった?」 「いや、その……」  すっかり香坂のペースになっていた。  このままではいけない、そう思った駕木は、なんとか話を切り出した。 「さっきの人、香坂の彼氏?」  そういうと香坂はすこしムッとして、 「言ったら、黙っててもらえるのかしら?」 「いや――言いたくないんだったら無理にいわなくても」 「わたしの片思い」  香坂は口早に言い切ると、すこし寂しそうな顔をした。 「片思いなのに、ここに来たってことは――身体だけの関係とか……不倫とか――」 「独身よ」 「そうなんだ……」  なにかショックを受けている自分が居ることに気づく駕木。  学園のアイドルとはいえ、清純そうに見えていた香坂が、年上の外国人とそうゆう関係にあったというのは、なんだか自分の世界がとても遅れているような、置いていかれるような、劣等感にさらされるのだった。
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