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「香坂はすっごくかわいいけどさ、これは違うよ。こんなこと、無理にすることじゃない」
「……わたしを断ってる?」
「香坂がなにを思って、なにを隠しているのか知らないけど、嫌なことはやるもんじゃないよ」
「嫌がってる? 当然よ、だって交換条件だもん。でも、それで駕木くんが黙っていてくれるんだったら、わたしの身体なんて安いものよ」
「ダメだ、香坂。それ間違ってる」
「間違ってない! わたしはね、駕木くんなんかにはわからないくらい、重要なことのためにこうしているの! そのためだったら、わたし死ぬことだってできるのよ!」
「そうかもしれない、けどそれは、今じゃなくていい。少なくともぼくにはそんなことしなくていいよ」
「なにそれ、信用できない」
「じゃあ誓うよ、宣誓する」
「なにを、だれに誓うっていうの?」
「香坂に誓う。ぼくは今日見たことは誰にも言わない。それで香坂の心が救われるんなら、安いもんだよ」
「あなた、ばかなの?」
「香坂こそ」
ふたりは睨みあった。それはもう、お互いに意地の張り合いであった。
ふたりのあいだに、沈黙が流れる。
どちらも譲らない時間は、とても長く感じられた。
しかし、さきに破顔したのは香坂であった。
「駕木くんわかってないよね、これは冴えないあなたにとって、人生最大のチャンスなのよ」
「な、なんのチャンス?」
「わたしみたいな可愛い女の子を抱けるっていうチャンスよ」
「なっ――チャンスくらいまだあるさ!」
和らいだ空気に気が抜けて、駕木もおかしな返答をしていた。
「いいえ、ないわ」
香坂は勢いづいて、鼻を鳴らした。
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