#1 同級生なんてこわくない

9/13
前へ
/68ページ
次へ
「香坂はすっごくかわいいけどさ、これは違うよ。こんなこと、無理にすることじゃない」 「……わたしを断ってる?」 「香坂がなにを思って、なにを隠しているのか知らないけど、嫌なことはやるもんじゃないよ」 「嫌がってる? 当然よ、だって交換条件だもん。でも、それで駕木くんが黙っていてくれるんだったら、わたしの身体なんて安いものよ」 「ダメだ、香坂。それ間違ってる」 「間違ってない! わたしはね、駕木くんなんかにはわからないくらい、重要なことのためにこうしているの! そのためだったら、わたし死ぬことだってできるのよ!」 「そうかもしれない、けどそれは、今じゃなくていい。少なくともぼくにはそんなことしなくていいよ」 「なにそれ、信用できない」 「じゃあ誓うよ、宣誓する」 「なにを、だれに誓うっていうの?」 「香坂に誓う。ぼくは今日見たことは誰にも言わない。それで香坂の心が救われるんなら、安いもんだよ」 「あなた、ばかなの?」 「香坂こそ」  ふたりは睨みあった。それはもう、お互いに意地の張り合いであった。  ふたりのあいだに、沈黙が流れる。  どちらも譲らない時間は、とても長く感じられた。  しかし、さきに破顔したのは香坂であった。 「駕木くんわかってないよね、これは冴えないあなたにとって、人生最大のチャンスなのよ」 「な、なんのチャンス?」 「わたしみたいな可愛い女の子を抱けるっていうチャンスよ」 「なっ――チャンスくらいまだあるさ!」  和らいだ空気に気が抜けて、駕木もおかしな返答をしていた。 「いいえ、ないわ」  香坂は勢いづいて、鼻を鳴らした。
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加