#1 同級生なんてこわくない

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「なんなのもう! はっきりしないわね!」 「黙っていればそれでいいんだろ?」 「もしかして駕木くんて下着は付けたままの方が好きなの? 着衣とか、コスプレが萌えるとか――あ、もしかして同性のほうが!?」 「そういう趣味はないし……」 「じゃあなに? あなたは黙っているだけで3億円もらえますっていって、目の前に3億円がはいった鞄を置かれても、要りませんって言って返すの?」 「なにそれ、どういう例え?」 「ここに3億円の入った鞄が落ちていたとしてよ、あなたは交番に届けるっていうの?」 「うーん……届けるかな」 「どれだけお人よしなのよ! なに? 正義感? そういうの口だけにしときなさいよ」 「ぼくは逆に、香坂がそうゆう人だったんだなって新鮮な感じかな?」 「はああああ? なになに、駕木くんて仏? 解脱してんの? 草食系? 草食ってんの? なんだよちくしょう、つか、高校生でしょ? 慾とかねーの?」 「香坂なんか、言語とキャラが崩壊してない?」 「崩壊もしますよ!」  香坂は叫びながら、駕木をベッドに押し倒した。  仰向けに倒れる駕木に跨ると、香坂は両手で肩を抑えつけた。 「駕木くん、わたし、3億円」 「いや、香坂は3億円じゃない」 「3億円の価値があるくらい、かわいいって自負してるのわたし。それはどう思う?」  香坂のくりくりとした瞳に、間近で射すくめられる。 「肯定します……」 「じゃあそんなわたしのことを、好きにして良いって言われたら?」 「交番に届ける」 「だああああ、もー話にならない! 駕木くん、あなたは小市民かもしれないけど、ちょっとくらい勇気を持てば幸福になれるの!」 「ぼくは小市民のままでいいから――香坂が幸福になりなよ」 「ばかじゃないの……」  香坂はとても信じられないという顔で、駕木を見つめていた。  すると駕木も、すこしばかり顔を赤らめながら、 「そりゃ、全然後悔しないかって言ったら、たぶんウソだけどね」  と苦笑する。  香坂は、はあ~、と大きなため息をひとつ吐いてから、駕木から降りた。  そして駕木に背を向けながら、 「あ~ぁ、もったいな」  と立ち尽くした。 「ごめん――」  解放された駕木もゆっくりと身体を起こす。  香坂のほうを向くのは気が引けて、ふたりともどこか上の空だった。
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