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「なんなのもう! はっきりしないわね!」
「黙っていればそれでいいんだろ?」
「もしかして駕木くんて下着は付けたままの方が好きなの? 着衣とか、コスプレが萌えるとか――あ、もしかして同性のほうが!?」
「そういう趣味はないし……」
「じゃあなに? あなたは黙っているだけで3億円もらえますっていって、目の前に3億円がはいった鞄を置かれても、要りませんって言って返すの?」
「なにそれ、どういう例え?」
「ここに3億円の入った鞄が落ちていたとしてよ、あなたは交番に届けるっていうの?」
「うーん……届けるかな」
「どれだけお人よしなのよ! なに? 正義感? そういうの口だけにしときなさいよ」
「ぼくは逆に、香坂がそうゆう人だったんだなって新鮮な感じかな?」
「はああああ? なになに、駕木くんて仏? 解脱してんの? 草食系? 草食ってんの? なんだよちくしょう、つか、高校生でしょ? 慾とかねーの?」
「香坂なんか、言語とキャラが崩壊してない?」
「崩壊もしますよ!」
香坂は叫びながら、駕木をベッドに押し倒した。
仰向けに倒れる駕木に跨ると、香坂は両手で肩を抑えつけた。
「駕木くん、わたし、3億円」
「いや、香坂は3億円じゃない」
「3億円の価値があるくらい、かわいいって自負してるのわたし。それはどう思う?」
香坂のくりくりとした瞳に、間近で射すくめられる。
「肯定します……」
「じゃあそんなわたしのことを、好きにして良いって言われたら?」
「交番に届ける」
「だああああ、もー話にならない! 駕木くん、あなたは小市民かもしれないけど、ちょっとくらい勇気を持てば幸福になれるの!」
「ぼくは小市民のままでいいから――香坂が幸福になりなよ」
「ばかじゃないの……」
香坂はとても信じられないという顔で、駕木を見つめていた。
すると駕木も、すこしばかり顔を赤らめながら、
「そりゃ、全然後悔しないかって言ったら、たぶんウソだけどね」
と苦笑する。
香坂は、はあ~、と大きなため息をひとつ吐いてから、駕木から降りた。
そして駕木に背を向けながら、
「あ~ぁ、もったいな」
と立ち尽くした。
「ごめん――」
解放された駕木もゆっくりと身体を起こす。
香坂のほうを向くのは気が引けて、ふたりともどこか上の空だった。
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