#1 同級生なんてこわくない

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「誰かが可哀そうな自分に情けをかけてくれる、なんて甘いこと考えないでね――冴えない駕木くんには、そんなこと絶対にありえないんだから」 「あんまり、言わないで」 「これから一生、後悔するの」 「忘れるように努力するよ」 「ダメ」  香坂は脱ぎ捨てた衣服を拾い上げて、袖に腕を通しながら続けた。 「チャンスは一瞬なの――幸運の女神に後ろ髪はないの」  しかし、そういう香坂は、すこしホッとした貌をしていた。  だが駕木は、それに気づかずに、窓へと足を運んだ。  息が詰まる気がして、外の空気を吸いたくなったのだ。 「開けてもいい?」 「どうぞ」  香坂の姿が外から見えないよう、カーテンの内側に入る。  目隠し用のルーバー扉を開けると、裏通りがみえた。  出窓は転落防止のため、手のひら程度しか開かないようになっていたが,、外気がふわりと滑り込むと、駕木もすこし落ち着いた。  梅雨入り前の、じっとりと湿気を含んだ空気でも、澱んだ密室にあっては、閉塞感を打ち破るカンフル剤になった。  着替え中の香坂を観察するわけにもいかず、駕木はぼんやりと路地を眺める。  人通りは少なく、昼間から飲んだくれたお爺さんが、ふらふらと歩いているのがみえた。  そしてその横を、白い小動物が、ちょこちょこ通っていった。 「あっ!!」  思わず声を上げる駕木。 「え、なに!?」  喚声に驚く香坂に、駕木はあわててカーテンから顔を出した。 「いた! ニワトリ!」 「あ、探してたやつ」 「ごめん、香坂! ぼくもう行くよ!」  そういうと、駕木は玄関まで駆けていった。
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