#プロローグ

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 巨大黄金都市(メトロポリス)。  東京の夜景は、世界でもトップクラスに美しいという。  屹立(きつりつ)する高層ビルの窓明かり。  巨大看板のまたたくネオン。  整然とならぶ街燈を、輸送機が血液のように巡っていく。  手にした携帯端末は、ひらひらとゆらめく蛍である。  街に広がる光の絨毯は、天上の星より輝く人の営みであった。  その絨毯に、穴が開いていた。  新宿靖国通り、歌舞伎町交差点を中心に半径100メートルほどの大穴である。  いつもならば辟易するほど明るいそこが、闇に包まれていた。  ヤマダ電機、ドン・キホーテ、ユニクロ、新宿区役所、紀伊国屋書店、ライオン広場、西武新宿駅などなど、みな沈黙している。  ことさら異常なのは、穴の内側に光が「ない」ことである。  車の前照灯や携帯までが、精気を吸われたように消えていた。  光を奪われた人々は、困惑していた。  足取りもおぼつかなく、彼方の光を追い求めた。  だから――闇にうごめく影には、気づかなかった。  あるはずのない光景として、認識されなかったのかもしれない。  常識はずれの出来事に遭遇すると、人は気絶をするか、拒絶をする。  超常を許容できるのは、わずかな者だけである。  交差点の中央にたたずむ影は、長い巨躯をしならせていた。  姿は判然としない。  極度の近視にでもなったように、像が結ばれないのだった。  それらが棲む世界と、人の生きる世界とが相容れないため、視ることが出来ないようであった。  と、影に近づく者がある。  槍や刀を手にした黒装束の男たちが、闇に得物を閃かせた。  太刀筋が、空を斬る。  雲や霞を斬ることが出来ないように、影にもまた感触がないようであった。  それでも男たちが、10、20と太刀を浴びせると――  影は身をよじり、東へと進路を取った。
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