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「よう、駕木! 散々だったな!」
清々しい大声で、駕木の眠りを遮ったのは山本である。
側頭部の刈り込みまで、昨日より青くみえる。
また自前のバリカンでも使ったのだろう。
「十二こそ、1限目ぎりぎりだったじゃんか」
「また夜更かししちまったよ!」
また新作AVでもチェックしていたのだろう。
身だしなみは女優への敬意だ、というわけのわからない自論をもっている。
あれだけ働いたあとで、よくそんな元気があったなと、駕木も感心する。
「ニワトリ、まだ眠ってたよ」
「なんだ、てっきり鳴き声に叩き起こされて、寝不足かと思ったぞ」
「あいつも疲れてたんじゃないかな?」
「ふーん。で、3限目の宿題はどうかね?」
「ほら、これだろ」
わかっていたように、駕木は数学のノートを山本に手渡した。
「いつもこれくらい、素直に渡してくれたいいんだがな!」
「口が減らないんだったら、返してくれていいんだぞ」
「いやー駕木くん、面目ない! 首の皮が繋がった!」
華麗な転身で、山本はそそくさと席にもどると、ノートを写しはじめた。
駕木はさっさと渡して、授業まで少しでも眠りたかったのだ。
ふたたび突っ伏して、安眠をむさぼろうとしていると――
「おはよう、駕木くん」
「んあ?」
うなだれたまま気のない返事をした駕木だったが――
聞き覚えのある声にハッとして、顔をあげる。
香坂間継が立っていた。
早朝の仕事でもあったのか、たった今登校してきたようである。
「お……おはよう」
ようやく挨拶を返すと、香坂は優しく微笑んだ。
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