#2 幼馴染なんてこわくない

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「疲れてるの?」 「…………」  あれだけ黙る黙らないの話しをしておいて、翌日に話しかけてきたのでは、元も子もないのではないか? と不安になる駕木。  学校でも、香坂は衆目を集めている。  その香坂が、取り柄もない駕木に、朝一で話し掛けるというのは、異常である。  教室にも「あれ?」という空気が漂いはじめた。  香坂は妖艶な微笑みを浮かべた。  そして、手にした黄色い長財布から五千円札を引き抜くと――  ひらひらと空中をはためかせてから、駕木の机に置いた。 「昨日のホテル代、返すね」 「――え?」  澄んだ美しい声が響いた。  駕木も、香坂が何を言ったのか理解できずに、教室は静寂に包まれる。  香坂はすぐに言葉を継いだ。 「ホテルの利用料金よ。わたしが誘ったんだから、駕木くんからはもらえない。それに、休憩時間(レストタイム)だから、安いの。気にしないで」  日常会話のようにさり気なく放たれた言葉は――  クラスメイトの脳内で反芻され――  分厚いガラスが割れるような(ひび)を産んだ。 「こ……香坂さん、いま……」  動揺する駕木に、香坂はたたみかける。 「駕木くん、素敵だったわ」  うっとり、というような(かお)を演出して、視線を宙に泳がせた。 「それ秘密なんじゃ――」  うっかり放った駕木の、肯定ともとれる言葉は、教室を凍りつかせた。 「駕木くんへの好意は、秘密じゃないの」 「ええっ!?」 「まだわからない? じゃあわかるように言ってあげる」  香坂は軽く目を閉じて、小さく息を吸うと――  大きく目を見開いてからこう言った。 「『駕木くん、わたしと付き合ってください!』 どう? これで満足?」  最後の一言は余計だが、それはこの学校の全男子生徒が夢にまで観た光景。  香坂間継の告白だった。
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