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駕木は絶句して、硬直する。
クラスの皆も一様に、あんぐりと口を開けて固まってしまった。
香坂は、駕木の頬にそっと触れた。
「返事を聞かせて。まだるっこしいの嫌いよ」
「う? ほ! へ??」
混乱の渕に落とされ、挙動不審になる駕木。
香坂に触れられて、一時停止が解除されたのか、手足をばたつかせる。
と――
「あのう、宗教勧誘ですかぁ?」
素っ頓狂なことを言って割ってはいったのは、家込逢澄だった。
空気の読めない性格の家込には、教室のフリーズは効かなかったようである。
「あ、アイス?」
駕木とは家も隣で、物心ついたときから一緒であった。
おっとりしてはいるが、家込のほうが誕生日が早かったせいか、いつも姉の空気を醸していた。
パクパクと不忍池の鯉のようにふためく駕木が振り返ると――
香坂も家込を認めて、少し驚いたような顔をしていた。
「家込さん? ――なるほど、そうゆうこと」
「無人、すぐ泣くと思う」
「そうなの?」
「『泣き虫なきと』って言われてて」
「へぇ、かわいい~」
「ちょっと――アイス……」
暴露話をはじめる家込に、わけがわからなすぎて本当に泣けてきてしまう駕木。
「いまはアイスの天然に構ってる場合じゃないんだって」
「そうよ、駕木くん」
何故だか香坂も同意して――いやむしろ、睨むような顔をして、
「家込さんがいまどれだけのことをしているのか、駕木くんにはわかってないんでしょうね!」
「ええっ!? なんでぼくが――」
「あなたいま、ふたりの女の子に恥かかせてるの」
「はあっ!?」
またしても混乱の底に叩き落とされる駕木。
もう何がなんだかさっぱりであった。
そこへ、2限目の担当教員、古文の田所が顔を出した。
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