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「よーし、授業はじめるぞー、席につけー」
まだ眠そうにしながら、のっそりと教卓に荷物をおく田所だったが、皆が香坂を向いてフリーズしているのに気づくとようやく、異変を察知した。
「なんだ、どうした?」
だれに言うでもなくぼやくと、クラス委員の三輪来乃実が立ち上がった。
「不純異性交遊です! 痴情もつれちゃってます!」
とげとげしく告発する三輪だったが、田所はいたって冷静だった。
「高校生なんだから、そういうこともあるだろ」
「先生、それ教師の発言としてどうなんすか?」
「どうもこうもあるか、オレだって、勉強だけ教えてるほうが楽なんだ」
田所が投げやりに返すと、
黙っていたクラスメイトたちの矛先が田所に向かった。
「だって香坂ですよ!」
「なんでだああああおおおおええああああああ」
「これSNSで呟いたらまずよね」
「駕木? あんなやついた?」
堰を切った情念があふれだし、いよいよ収集がつかなくなってしまった。
こうなっては田所も、授業の進行をあきらめざるをえなかった。
「香坂、家込、駕木、ちょっと生徒指導室に行くぞ。三輪、悪りぃけど教室は任せた!」
田所は渦中の3人を引き連れて教室から出ていった。
残されたクラスメイトたちは、憶測と不満をだらだらと宣っていたが――
怒髪天の三輪が黒板を爪でひっかくと、みな耳を塞いで悶絶した。
「自習しろクズども! 騒いだら殺すぞ!」
三輪の剣幕に、クラスメイトは押し黙った。
だが納得はいかない様子で、みなはぶつくさいっている。
それぞれの妄想を膨らませ――自習するものは誰もいなかった。
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