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先週のことである。
家込逢澄はいつものように、屋上の給水タンク塔に登って、風に当たっていた。
ここは家込の特等席である。
校内のだれもこんなとこまで登ってこない。
静かで、日差しもよく、風も抜けるので、低血圧の家込は、朝からよろよろとよじ登ると、朝課外や1限目を、日光浴して過ごすのだった。
駕木は、そんな家込の様子を休憩時間毎に見に来るのが日課であった。
「アイス、HR終わったぞ」
「う~ん……まだだるい」
「じゃあ1限目も欠席にしとくか」
「ねえ無人ぉ」
「あん?」
家込は、いつになく間怠い声を投げた。
「すごい力とかないかな?」
「なにそれ」
「空飛んだり、ビル壊したり」
「アイス、運動できないよね? 走るのだってビリじゃん」
「そこをなんとか」
「阿寒湖のマリモには、勝てるんじゃない? んー、水中戦じゃ厳しいか」
「じゃあ、大食い選手権にする。どう?」
「これなんの話し?」
「ここで太陽の力をもらっているのだー、とか言いたいのかも」
そういって空に手をかざす家込。
駕木は悠然とそれを眺めて、
「アイスにも取り柄はあるよ」
と励ました。
「おぉ、どんな?」
「ここで眠れるのも、能力っちゃ能力だ」
「わたしすでに能力者だったか」
「いやホントそう思うよ」
それは確かにそのとおりで、家込がここで朝の時間を日光浴に費やしても、成績は常に上位なので、教員たちも何も言えないのであった。
「じゃあ、戻るね」
「無人だったらどんな力がいい?」
「ぼく? 通信簿、見せたよね?」
年度末の通信簿の評価は、すべての項目が5段階評価中の「3」だった。
延々と3が並ぶ通信簿をみて、妹の雪花は「人間アベレージ」と罵った。
「ミスタースリーだったか! バンバン!」
家込は寝ころびながら、指鉄砲を殺し屋のように構えていた。
「普通、っていうんだよ」
悪足掻きする気もない駕木は、成績を受け入れていた。
べつに困りはしない。
叱られるわけでも、褒められるわけでもない。
普通であることで、平穏が得られるのなら、駕木にとっては十分だった。
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