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「わたし駕木くんと付き合うことにしたの。そのほうが都合よさそうだから」
「はい、意味がわかりません」
田所は他の教員を呼びに行ったので、部屋には当事者だけが残されていた。
この状況で席を外す教育者に疑問は残るが、駕木はなんとか応戦していた。
「無人には、まだ早いんです」
眉根を寄せて困ったような顔をした家込が言った。
「アイス、それってぼくが人と付き合うのが早いって言ってる?」
「あら、駕木くんは知らないあいだに、大人になってるかも」
「香坂さん、誤解を生む言い方しないでくれる?」
「無人のは、まだ未熟で――」
「おおっと!? アイスまで!? ぼくたち、ただの幼馴染だから」
「わたしは、駕木くんの持つモノがどれくらいのものか、測りたいの」
「も、モノを測るっ!? ちょっとなに言って――」
「測らなくても、わたしは知ってます……」
「あっれー、ぼくとアイスってそんな関係だっけ!?」
穏やかな香坂と家込のあいだで、ひとり忙しない駕木。
しかしいくら駕木が騒ごうとも、ふたりはふたりだけで話を続けていく。
「家込さんは、昨日駕木くんになにがあったか知ってる?」
「いやいや、ぼくは約束通り、誰にも話してないから――」
「はい、知ってます!」
「え、なに見てたの!? いや、ホテルに入ったのは入ったけど、本当になにもなかったんだ!」
「じゃあ、駕木くんが置かれている状況もわかっているのね」
「とても苦しい状況ですよ、ぼくは!」
「無人とは、ずっと一緒に居たから」
「そりゃ幼馴染だからねっ!」
「家込ちゃんが、駕木くんの保護者だったのね?」
「むしろぼくが、アイスの面倒をみてたっていうか――」
何故だか気まずくなってくる駕木。
これではまるで、正妻と愛人のあいだで揺れるダメ男である。
そもそも誰とも付き合っていないのだから、前提が成り立っていない。
となるとこれは、タラし男の修羅場?
いやいやそんなことあるわけ――
などと駕木は慣れない思考を巡らせてクラクラしていた。
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