#2 幼馴染なんてこわくない

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  * 「わたし駕木くんと付き合うことにしたの。そのほうが都合よさそうだから」 「はい、意味がわかりません」  田所は他の教員を呼びに行ったので、部屋には当事者だけが残されていた。  この状況で席を外す教育者に疑問は残るが、駕木はなんとか応戦していた。 「無人には、まだ早いんです」  眉根を寄せて困ったような顔をした家込が言った。 「アイス、それってぼくが人と付き合うのが早いって言ってる?」 「あら、駕木くんは知らないあいだに、大人になってるかも」 「香坂さん、誤解を生む言い方しないでくれる?」 「無人のは、まだ未熟で――」 「おおっと!? アイスまで!? ぼくたち、ただの幼馴染だから」 「わたしは、駕木くんの持つモノがどれくらいのものか、測りたいの」 「も、モノを測るっ!? ちょっとなに言って――」 「測らなくても、わたしは知ってます……」 「あっれー、ぼくとアイスってそんな関係だっけ!?」  穏やかな香坂と家込のあいだで、ひとり忙しない駕木。  しかしいくら駕木が騒ごうとも、ふたりはふたりだけで話を続けていく。 「家込さんは、昨日駕木くんになにがあったか知ってる?」 「いやいや、ぼくは約束通り、誰にも話してないから――」 「はい、知ってます!」 「え、なに見てたの!? いや、ホテルに入ったのは入ったけど、本当になにもなかったんだ!」 「じゃあ、駕木くんが置かれている状況もわかっているのね」 「とても苦しい状況ですよ、ぼくは!」 「無人とは、ずっと一緒に居たから」 「そりゃ幼馴染だからねっ!」 「家込ちゃんが、駕木くんの保護者だったのね?」 「むしろぼくが、アイスの面倒をみてたっていうか――」  何故だか気まずくなってくる駕木。  これではまるで、正妻と愛人のあいだで揺れるダメ男である。  そもそも誰とも付き合っていないのだから、前提が成り立っていない。  となるとこれは、タラし男の修羅場?  いやいやそんなことあるわけ――  などと駕木は慣れない思考を巡らせてクラクラしていた。
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