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気乗りしない、と言いたげなミュシャを肩に乗せて。
エリスは住宅街を歩いていた。
ベッドタウンだが、いまはどの家にも明かりが灯っている。
西洋人の父娘のようなふたりは目立つものの、港湾が近いので珍しくもない。
教えてもらった住所は頭に入っていた。
けれど言葉にするのも億劫なので、ミュシャは指を差したり、うなずいたりするだけで案内していた。
新宿の後始末らしいが――どこに落ち度があったのかわかならい。
間違いなく完遂したはずである。
しかし説明はなく、情報だけが送られてきた。
任務は『偵察』である。
「なんでわたしたちが、こんなことしなきゃならないのよ」
ミュシャはひとりごちていた。
「あんただって、不満があるんだったら声のひとつでもあげなさいっての」
もはや八つ当たりである。
しかしエリスは、ただ指された方へ歩くだけだった。
そして辻までくると、じっと立って指示を待つ。
機械人形のように、正確に、言われたことだけを繰り返すエリス。
その凡庸な存在も、ミュシャを苛立たせた。
次の交差点まで80メートルはあるだろうか。
この足取りならば数秒は眠れるだろう。
ミュシャはそっと目を閉じる。
記憶していた顔写真と名前と住所が、識域に浮かび上がる。
駕木無人、綿津見高校2年生。
これといって特徴のない顔つき。
まったく活力を感じられない。
麩菓子を食べているみたいに味気がない。
興味が湧かない。おやすみ。
エリスが立ち止まる。
ここまでくれば、もう目を瞑ったままでも案内できた。
道なりに手を挙げるだけで、ふたたび眠りに入っていく。
だが、エリスは歩こうとしなかった。
首を振って、ミュシャを揺すったのだ。
「ああ? なに?」
迷惑そうに目を開けるミュシャ。
エリスは動じずに目くばせした。
眉根を寄せて、ミュシャも差した方角に目を向ける。
壁であった。
民家の外壁が続き、道がなかった。
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