#2 幼馴染なんてこわくない

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  *  気乗りしない、と言いたげなミュシャを肩に乗せて。  エリスは住宅街を歩いていた。  ベッドタウンだが、いまはどの家にも明かりが灯っている。  西洋人の父娘のようなふたりは目立つものの、港湾が近いので珍しくもない。  教えてもらった住所は頭に入っていた。  けれど言葉にするのも億劫なので、ミュシャは指を差したり、うなずいたりするだけで案内(ナビ)していた。  新宿(きのう)の後始末らしいが――どこに落ち度があったのかわかならい。  間違いなく完遂したはずである。  しかし説明はなく、情報だけが送られてきた。  任務は『偵察』である。 「なんでわたしたちが、こんなことしなきゃならないのよ」  ミュシャはひとりごちていた。 「あんただって、不満があるんだったら声のひとつでもあげなさいっての」  もはや八つ当たりである。  しかしエリスは、ただ指された方へ歩くだけだった。  そして辻までくると、じっと立って指示を待つ。  機械人形のように、正確に、言われたことだけを繰り返すエリス。  その凡庸な存在も、ミュシャを苛立たせた。  次の交差点まで80メートルはあるだろうか。  この足取りならば数秒は眠れるだろう。  ミュシャはそっと目を閉じる。  記憶していた顔写真と名前と住所が、識域に浮かび上がる。  駕木無人、綿津見高校2年生。  これといって特徴のない顔つき。  まったく活力を感じられない。  麩菓子を食べているみたいに味気がない。  興味が湧かない。おやすみ。  エリスが立ち止まる。  ここまでくれば、もう目を瞑ったままでも案内できた。  道なりに手を挙げるだけで、ふたたび眠りに入っていく。  だが、エリスは歩こうとしなかった。  首を振って、ミュシャを揺すったのだ。 「ああ? なに?」  迷惑そうに目を開けるミュシャ。  エリスは動じずに目くばせした。  眉根を寄せて、ミュシャも差した方角に目を向ける。  壁であった。  民家の外壁が続き、道がなかった。
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