#2 幼馴染なんてこわくない

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「え?」  そんなはずはない。  地図は叩きこんであるので、間違いようがない。  それなのに道が無いということは――  目を瞑っているあいだにエリスが道を間違えたのだろうか?  しかし、数メートルの直線でそんなヘマをするだろうか?  ミュシャは、すぐに気がついた。 「ここ、通った道……」  5分ほど前の記憶にある場所であった。  もちろん、戻る指示などしてはいない。  ミュシャはいまいちど、端末に送られてきた地図を確認した。 「ぁ……やられた」  舌打ちして、頭を抱えるミュシャ。 「見落としたぁーー!!」  それは道路に刻まれた〈(しゅ)〉であった。  細い路地でくらましてあるものの――  目標の家を中心に、巨大な六芒星が『道路で』描かれていた。 「こんな古典的な……籠目紋にかかるなんて」  エリスの肩を蹴って、路地に降りるミュシャ。  ふんぞり返ったまま、まっすぐ走るように合図をした。  エリスは頷くと、そのまま直進していった。  背中を見送って数分後、ミュシャの背後からエリスが走ってきた。  空間がループしていた。  つづいてミュシャは道路脇の民家へ闖入するよう指示を出す。  エリスは塀を乗り越え、ガラスを割って入ったが――  人の姿もなかった。  蝋でできたように凍りついた食事が、食卓に並ぶばかりであった。 「NEVER MORE !!」  それはミュシャの好きな詩の一説であった。  どうしようもなくなったとき、これを叫んで気を紛らわせるのだ。  綺麗に刈られた青芝に、ミュシャはごろりと寝そべった。  夜だというのに、庭からは虫の鳴き声ひとつしなかった。 「とんだ貧乏クジ……でも――」  ミュシャはエリスに見向きもせずに続けた。 「あんたには、まだリンドブルムが入ってるんでしょ? なら、ガーデンはあんたを取り戻しにくる。わたしたちが戻らないっていうのが、何よりも救難信号になるわ。助けがくるまで、わたしたちにできるのは――待つことだけ」  敵の術中にあって――  ミュシャは大胆にも眠りはじめた。  エリスも軒先に座ると、ぼんやりと空を眺めた。
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