#プロローグ

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 影に合わせて、闇の穴も動いていく。  停電の原因は、この影にあるらしい。  進路上の車両は、潰れるでも押しやられるでもなく、そのままだ。  棲む世界が違うため、光以上の干渉が出来ないのかもしれない。  黒装束がさらに襲いかかると、影は咆哮を上げた。  それは人間の可聴域を超えた雄叫びであった。 「ぐ……」  男のひとりが、膝をついて倒れる。  仲間が、倒れた男の腕を引いて、後方に跳躍した。 「動けるか?」 「――――」  脳震盪でも起こしたのか、男は焦点を失って呆然としていた。 「レゾンデートルがやられた」 「ポイントまであと少し。持ちこたえろ」 「回収車はまだか」 「まだ、こちらに向かっている」 「はやく片つけねぇと、あいつらに――」 「リンドブルム級だ、いくらガーデンの連中だって」 「ちっ、もう来やがった」  黒装束が空を見上げると、青白い光の筋が、夜風を渡っていた。  筋は、まるで全体が意志を持っているように、影を囲んでいく。 「運び屋か!」 「だんまり屋のエリスだ!」  憎々し気に叫ぶ男たち。  光は影に取りついて、一瞬、姿を露わにさせた。  巨大な蛇であった。  筒形の胴体に、節くれだった『くびれ』と、鈎爪のある腕を持っていた。  と思ったのもつかの間、すべてはまた夜へと消えていく。  幻でも観ていたように、青白い光も霧散してしまった。 「撤収だ」  リーダー格らしい男は、呆然自失の男に肩を貸しつつ、闇へ紛れた。  ほかの黒装束たちもまた、口惜し気に闇へと溶けていった。  メトロポリスの穴が、外周から塞がっていく。  光と音が回復し、すぐにいつもの喧騒が戻ってきた。
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