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新宿BYGSビルの屋上には、レスラーみたいな大男と、白いワンピースの少女が居た。
「浮かない顔」
小さなミュシャが気持ちの籠っていない声をエリスに投げる。
エリスは、立ち尽くしたまま腹をさすっている。言葉を返そうとはしない。
小学生くらいの清楚な女の子と、タンクトップの中年男性のペアは、誘拐を思わせる。
つい先刻まで停電していた区役所を、ここからは見通すことができた。
「ちゃんと呑めたんでしょ? なんでそんなに浮かない顔してんの」
見上げることしかできない少女だが、態度は不遜だった。
「――――」
腹をさすりながら見つめ返すエリスに、ミュシャは顔を歪ませる。
「あんたのコトバが、わたしにわかるわけないでしょ? もっと身振りとか、手話とかやりようがあんでしょーが?」
するとエリスは困ったように、頭を傾げた。
「期待してないわよ。どうせあんたには、『運ぶ』以上の脳なんてないんだから。それで――問題なく歩けるのよね?」
ミュシャがそういうと、エリスはこくりと頷いた。
それからミュシャをひょいと肩に担ぐ。
ミュシャは、エリスの頭に腕を回すと、
「どうしてあんたみたいな木偶の坊が、アースキーパーなのかしら。神さまは演出過剰よ」
といった。
無口なエリスに苛立って、つい饒舌になってしまうミュシャ。
エリスはそのまま跳躍して、屋上から飛び降りた。
煌々と輝く絨毯の、その網目である闇のなかへ、ふたりは消えていった。
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