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綿津見高校2年C組の香坂間継は、駕木のクラスメイトである。
クラスメイトとはいっても、あちらは芸能一家のお嬢様である。
黒髪の令嬢は、遅刻・早退の合わせ技を使っても文句も言われず、担任は鼻の下を伸ばしながら「今日も頑張れよ」と送り出す始末だった。
片や、駕木無人は会社員の父と事務職の母のもとに生まれた平々凡々な高校生だ。
目まぐるしい毎日を送る香坂だから、取りたてて目立つところもない駕木のことなど記憶になくて当然なのだが、こんな時にかぎって、そういえば昨日、香坂に数学のプリントを渡したなということを思い出した。
『これ、休んでたときのプリント』
『ありがとう、えっと……』
『駕木だよ。駕木無人』
『そうそう、駕木くん。まだ名前覚えられてないみたい。クラス替えしてから2ヶ月も経つのに、ダメだよね』
『香坂さんは仕事が忙しいから』
『言い訳にならないよ。決めた、わたし月曜日までにみんなの名前を覚えてくる!』
そういうと香坂は駕木の顔をしっかり見つめて、
『あなたは駕木くんね。大丈夫、もう覚えた』
と優しく微笑んだのだった。
友達の山本十二が、羨ましがっていた。
綺麗で、しとやかで、背も高くて、スタイルも良くて、それでいて気が利くし、誰とでも分け隔てなく気さくに話をする。
これが芸能人かと見せつけられて、駕木は眩しかった。
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