#1 同級生なんてこわくない

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「駕木くん」 「は、はい!」  反射的に返事をして、駕木は回想から目を覚ました。  香坂はつかつかと歩いて、片膝をついている駕木との距離を詰める。  サングラスの奥の剣幕に、駕木は後じさりして、自販機に背を押しつけた。  香坂は、顔をぐいと近づけると、こういった。 「しゃべったら、殺す」 「ひっ」  恫喝されて、泣き出しそうになる駕木。  幼いころから、泣き虫なきと、と揶揄されていた記憶が蘇る。  すると香坂は顔を離して、白々しく聴くのだった。  その様は学校でみる姿とはまるで違う、荒んだ態度であった。 「こんなとこで何してるの?」 「えっと――」  香坂が「こんなところ」というのももっともで、ここは新宿二丁目の裏通りである。  ふたりの通う高校からも遠く離れており、ましてここは世界屈指のゲイタウンである。  マジョリティな駕木には、縁遠い場所であった。  しかしそれならば、香坂にだって同じことが言えた。 「香坂こそ、こんなところで何やってたんだよ」  精一杯の反駁である。  やましいことがあるのなら、自分だけ責められるいわれはないと思った。  だが、香坂はさらに険しい顔になってしまった。 「わたしが質問したの」 「う……」  駕木は、たちまちに凍えた。  芸能界の荒波を渡ってきた経験が反映されているのかもしれない。 「に、ニワトリを探してたんだ……」 「ニワトリ?」  虚を突かれたのか、香坂はすこし気を緩ませた。
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