2人が本棚に入れています
本棚に追加
/68ページ
「駕木くん」
「は、はい!」
反射的に返事をして、駕木は回想から目を覚ました。
香坂はつかつかと歩いて、片膝をついている駕木との距離を詰める。
サングラスの奥の剣幕に、駕木は後じさりして、自販機に背を押しつけた。
香坂は、顔をぐいと近づけると、こういった。
「しゃべったら、殺す」
「ひっ」
恫喝されて、泣き出しそうになる駕木。
幼いころから、泣き虫なきと、と揶揄されていた記憶が蘇る。
すると香坂は顔を離して、白々しく聴くのだった。
その様は学校でみる姿とはまるで違う、荒んだ態度であった。
「こんなとこで何してるの?」
「えっと――」
香坂が「こんなところ」というのももっともで、ここは新宿二丁目の裏通りである。
ふたりの通う高校からも遠く離れており、ましてここは世界屈指のゲイタウンである。
マジョリティな駕木には、縁遠い場所であった。
しかしそれならば、香坂にだって同じことが言えた。
「香坂こそ、こんなところで何やってたんだよ」
精一杯の反駁である。
やましいことがあるのなら、自分だけ責められるいわれはないと思った。
だが、香坂はさらに険しい顔になってしまった。
「わたしが質問したの」
「う……」
駕木は、たちまちに凍えた。
芸能界の荒波を渡ってきた経験が反映されているのかもしれない。
「に、ニワトリを探してたんだ……」
「ニワトリ?」
虚を突かれたのか、香坂はすこし気を緩ませた。
最初のコメントを投稿しよう!