#1 同級生なんてこわくない

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「山本の家が農家なんだけど、知り合いからニワトリもらうことになって、その手伝いをしてたんだ。けど――トラックで運ぶ途中、そこで事故っちゃって、何羽か逃げたんだ」 「それで――ニワトリを探していたの?」 「そういうこと」 「ふうん」  香坂が品定めするように駕木を睨めつける。  逃げ場もない駕木は、オーブンでじりじりと焼かれていくローストの気分だ。  と駕木の携帯が鳴った。  山本からの着信である。駕木が香坂を伺うと、香坂は軽くうなずいて電話に出るよう促した。ただし、人さし指を口に当てて『わたしのことは内緒よ』というポーズをした。 『よう、無人(なきと)、いまどこ?』 「どこだろうな――なんか寺の横みたいだけど」 『そっちは見つかったか?』 「全然だね、十二(とうじ)は?」 『こっちは2羽見つけたぜ』 「はぇーな」 『あと、1羽だ。親父は、まだ事後処理で動けねえみたいだから、もう少し頼むわ』 「ああ。ぼくももう少し探すよ」  そういうと山本は一方的に電話を切った。  香坂は背筋をまっすぐに伸ばして、頭をひと巡りさせている。  それから長身の香坂は、駕木を見下ろして、 「じゃあ、駕木くん。いま時間あるのね」 「へ?」 「わたしに付き合って」 「いや、聴いてたよね? ぼくはニワトリを探しに――」  という駕木の手を、強引に握った。それから、 「え、ちょっと、香坂さん!?」  いま出てきたホテルへと、再び入ってゆこうとしていた。
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