人魚の嘘

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 こぽこぽと苦笑の気泡が浮かぶ。腕に力を込めると、こぽり、砂見も吐息一つこぼした。  見上げる水面は遥か彼方。陽光が揺らめき、風が吹き、大気が満ちた、美しい世界。  だが彼女も知らぬわけでもあるまい。海の上で人間を見初めた人魚が、しまいには泡になってしまったことを。  波の音に紛れて、すすり泣いているのは誰だろう。  浅い眠りにたゆたいながら、でもどうしても身体が動かない。  砂見だろうか、それとも母だろうか。おそらく両方。  襖を隔てた向こう側。くぐもった、押し殺した声。泣かないで――そう言えば、何か変わったろうか。だけど翌朝、自分を起こす声音は初め優しく最後は厳しく、朝食の味も品数も相変わらず。ひょっとして自分は勘違いしているのではないか、そう訝るほど完璧な日常で。  悩むぐらいなら訊けば良かったのかもしれない。でも波立たせたくない、濡れるのはまっぴらごめん、そんな気持ちがあったのも否定できない。  ――結局、アイツと同じ、事なかれ主義。  背中を丸めて眠る砂見も、明日になれば、笑うのだろうか。昨日のことなど無かったフリをして。  入社丸二年で、こんな凡ミスをしでかしたのは初めてだった。 「何やってんだー、岩城」  怒る、というより呆れた口調の田上に頭を下げる。 「すいません」     
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