人魚の嘘

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 上司は心底美味そうに、ぷは、と煙を吐き出す。あまり品は良くないが、どことなく部下を安心させる仕草で岩城は好きだった。  プレゼンを終えての帰社。岩城と上司の田上は喫煙室でささやかな開放感に浸っていた。  広告営業部では、四半期ごとに、最も目標数字達成率が高かった課にインセンティブが支給される。岩城が所属する二課と三課はいつも競り合っており、加えて上司は三課課長の森とは犬猿の仲だった。 「あー、でもお前、企画書一カ所ミスってたろ。四月じゃなくて五月だっての。ちゃんと見直せよなー」 「それ、おれですか? 田上課長の役目でしょ」  軽く言い返すと、ブォー、ブォーと、低い振動音が響いた。背広の内ポケットから携帯電話を取り出した田上の表情が、見る間に歪む。 「くっそ、黒川の馬鹿社長からのお呼びだ。岩城、今田建設のパンフは任せた。夕方には色校くるからチェック頼むぞ」  足早に喫煙室を出て行く田上に、おつかれしたー、と声をかける。  一人になった岩城はビルが林立する都会の空を見上げた。見本にしたいぐらいの冬晴れに、反射的に目をすがめる。その大海のように単一な青を眺めなら、もう一本煙草を吸って、岩城はデスクに戻った。     
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