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広告営業部のフロアには、部長、副部長席の他に、四つの島がある。それぞれ一課、二課、三課、四課となっており、岩城の席は二課、島の角を陣取っていた。その背後にはコピー機が置いてあり、うつむき加減で操作する砂見の姿もあった。
砂見の背中。服の上からでもわかる、美しい逆二等辺三角形。服の下には、すぅーっと一筆書きしたような危うい直線が隠れているのを知っている。それを辿れば、どんなに切ない声を奏でるかも。
昼と夜の顔。そのコントラストをもう少し観察していたかったが、岩城は視線を引き剥がし、デスクに着いた。社内恋愛は別れてからがツライ。後々を考えると、迂闊な行動は取れなかった。
だがその思惑とは裏腹に、背中はびりびりと痛いぐらいに反応していた。全神経が背中に集合をかけられたように、砂見が身動きするたびに、粟立ち、波立ち、荒立つ。
しばらくしてコピー機の騒々しい音が止んで。
「……―――――!」
ひらり。それは尾びれでなぜられた、感触。
砂見が自分の席に戻るには、岩城の背後を通り過ぎなければならない。その瞬間、彼女が岩城の背にくぼみに指を走らせたに違いなかった。
ひらり、ゆらり。
デスクの間を縫って歩く彼女を視線で追う。
どうして今まで気に留めなかったんだろう。無防備に、ひそやかに、あやしく、揺れて、かすめる、彼女のひれに。
口元を押さえた手が熱い。いや、熱いのは頭だろうか。
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