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「なんのために仕事をやると思ってるんだよ。やるだけ無駄じゃねぇか。何ヘラヘラしてる。そういうのすっげえ失礼だぞ、胸クソ悪ぃ」
再発防止のためには、ミスの原因究明は大切だ。
納品前に確認できなかったのは、校了直前にクライアントの都合で大幅なレイアウト変更が発生し、入稿が半日ズレ込み、納品日に間に合わせるために印刷屋から直接クライアントへ発送したから。さらに付け加えれば、リーフレットの紙質を間違えたのは彼女ではなく印刷屋であり、クライアントに頭を下げたら、あとは印刷屋に厳重注意、刷り直しの交渉をすれば済む話だった。
にもかかわらず、森は砂見をえんえん三十分以上も叱り続けていた。何かにかこつけて、必要以上に説教したがる輩がいるが、森はまさにそういうタイプだ。そして運の悪いことに砂見は三課、奴の部下だった。
「砂見」
ようやく解放された砂見が駆け込んだ給湯室に、時差を見計らって、さり気なく入り込む。
彼女は冷蔵庫の白くのっぺりした筐体(きょうたい)に顔を伏せていた。
荒れ狂う海、やっとで岩礁に縋り付いた、あまりに憐れなその姿。だが迂闊に手を差し伸べるのは、こちらにとっても危険だ。引きずり込まれてしまう可能性があるかもしれない――だけど。
「見ないで。今、ひどい顔してるから」
「砂見」
「…………」
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