僕とチェロ

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僕が魔法で龍を生み出せたのは、本当に偶然だった。 森の中で無造作に生える、背が少し高い植物に向けて適当に呪文を唱えたのが始まり。その時、クラスの間でオリジナル呪文を作るのが流行っていたから便乗して頭に浮かんだのを。当然いつもは適当に唱えたところで何も起きないんだけど、何故か僕の場合、植物が姿形を変え、遂には黄緑色の小さな龍になってしまった。 一目見て僕を親と認識したその龍はすっかり懐いてしまって。元に戻す術もないから僕はそのまま家に連れ帰った。 運がいい事に、僕の両親は大の動物好きだったから、すんなり迎え入れる事ができた。飛び回るけど手のひらサイズから成長することもなく、元植物らしく餌は水と日光だけで良い。散々悩んでチェロと名付けた。 チェロは散歩が大好きだ。僕が学校から帰ってくるとリード付き首輪を咥えて飛んでくる。 その日もチェロを連れて外に出た。昼と夜が混ざり合った不思議な色に染まる道をいつもの様に歩く。 「コニー!チェロ!いい所に居たわ!」 途中、クラスメイトのハニーと出会った。彼女は大きなバスケットからクッキーの入った包みを取り出して、僕にくれた。 一本に纏められ、緩く編まれた赤毛が風に靡いた。 「作り過ぎちゃったからご近所に配ってたのよ。」 「ありがとう。」 「チェロはこっちね。」 次に出てきたのは、太陽の光で練られ固められた棒キャンディ。チェロの大好物だ。キラキラと光るキャンディに有無を言わず飛びついたチェロ。ハニーが琥珀色の瞳を細めて笑う。 「相変わらず魔法お菓子が得意なようで。」 「チェロが喜んでくれるからね、頑張っちゃうわ。」 そうやって、他愛ない会話をしていると、鼠色のローブを纏った老人の姿が目に入った。ハニーもその気配に気がついて振り向く。フードのせいで顔があまり見えない老人は、シワシワの指でチェロを差す。 「その子は、王の使いではないか?」
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