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「今日は君に大事な話があるんだ。聞いてくれる?」
「はーい、聞きますよぅ」
女の言葉にこの状況に飽きてきたのか男は投げやりに返す。しかし女は相変わらずの真剣な表情でこの小芝居を続ける。
「これ、君に」
「こ、これって…」
3度目のやり取り。律儀にも先ほどと同じようなリアクションを取る彼に彼女はニッコリと笑いかけた。
「給料三ヶ月分の君に当てた手紙だよ」
「迷惑!」
食い気味に男のツッコミが入った。流石に3度目ともなるとその語調はやや強みのあるものに変わっていた。
「でも、思いは伝わるやん」と、女が頬を膨らませる。
「伝わりすぎて引くわ。だいたい給料三ヶ月分の手紙ってどういうことやねん」男はまくしたてるように反論した。テレビからは放映されているバラエティ番組から起きた笑い声がうまい具合に彼らのやり取りにかぶさってくる。
「レターセット20枚分でだいたい1500円くらいやから、8000通くらいは書けるかな」
「ストーカーやから、それ」
「まあ、指輪とかはどうでもいいねん」
「今自分で指輪って言ったからな?」
男の言葉をあえて無視するように、彼女はまたまた真顔に戻って背筋を伸ばした。
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