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卒業の春に
仰げば尊し 我が師の恩……
教えの庭にも 早や幾歳……
広い体育館に生徒達の歌声がこだまする。鈴木奏は級友達と声を合わせながら、こみ上げる涙を必死で堪えていた。
(うっわ、この歌やっばーい。さっきまで全然平気だったのに、歌い始めた途端にウルウル来たー)
卒業式マジックとでも言うのだろうか。普段は涙とは無縁、どちらかと言うとガサツなタイプの奏でさえ、目頭が熱くなるのを抑えきれない。
周りの友人達も皆一様に目を赤く染め、あるいは人目も憚らず大粒の涙をポロポロと溢しながら一生懸命に惜別の歌を口ずさんでいた。
ふと前方に目をやると、二列先に高梨颯太の姿があった。
(あっ、高梨君みっけ)
その背中を見つめているだけで、少し落ち着きを取り戻すことができた。
颯太とは、1年生の時からずっとクラスが一緒だった。
成績が近く話も合う二人は、クラス内でも何となく同じグループに属していた。
テストのランキングはまずまず上位、だが志望校を目指すにはギリギリといったところだった奏が何とか合格できたのは、高梨颯太のおかげだと思っている。
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