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「それ、流石に買い換えないとヤバくね?」
「ん?」
俺はつんつん、とテーブルの上に置かれた美也子(みやこ)のペンケースを突っついた。
がっつり腐女子の美也子と、ギャルゲーオタクの俺。とあるゲームのオフ会で知り合って意気投合し、いつの間にやら付き合うようになって早三年になる。高校生だった自分達はなんとかお望みの大学に進学。同じ学校に、とはいかなかったが(そもそも偏差値も行きたい進路も違うのだから仕方ない)、それでも元々家はさほど遠くない。こうして休みのたび、レストランでお絵描きデートをする習慣は付き合ってからずっと続いていることだった。――受験のピーク時でさえ、時々二人して勉強をサボってオタトークとお絵描きに勤しんでいたのはここだけの話である。
「や、だから。美也子氏のペンケースですよー。それ俺と付き合う前から使ってんだろ?使用頻度高いせいでもうボロッボロじゃねーか。ほら、ここ穴空いてんぞ」
自分達はどちらも年季の入ったオタクで、夏冬の戦場ではそれぞれ同人誌を書いていたりする。もちろんジャンルも趣向も違うが共に当選した場合は互いのスペースを教えあって交互に売り子を頼むくらいには理解があるつもりである(タツマキナインのBLサークルで男子高校生が売り子してたり、ひまわりこれくしょんのGLサークルで女子高生が売り子してたりというのはなかなかシュールな図だったかもしれないが)。
レストランに集合してお絵描き会をしつつ互いの漫画を評価したり原稿のネタを出しあったり、それに疲れたらゲーム機を出してきて対戦したり。普通とは違うかもしれないが、昔からそれが自分達のデートで、お互いに一番楽しい時間なのであった。
まあ早い話。そんな自分達の使うペンやペンケースというのはつまり、戦友にも近い存在なのである。思い付いたらがががががーっ!とネタを書くことも珍しくない自分達。当然ペンもケースも乱暴に扱われることが少なくない。とすれば、美也子の持っているような――ビニール製の安価な赤いペンケースなど、簡単に壊れてしまうのは仕方のないことではあった。
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