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完全に繋ぎめが裂けてしまっている、それ。このままいけばさらにビリビリ破れて穴が広がっていくのは明白だった。中にぎっちり詰まったサインペンやらコピックやらが飛び出して落下するのも時間の問題だろう。――同じく同人誌を書いている俺は知っているのだ。そのペンケースよりも、中のペンの方がよほど高価だということくらいは。いやほんと、コピックってのはどうしてあんなに高いんだといつも思わずにはいられないわけで。
「あ、そーだ。もうすぐ美也子の誕生日だし、もうちょい丈夫なの買ってやるよ。まあ、誕生日プレゼントはもっと他のものがいいっていうなら、それでもいいけど……でもさすがに、それ使い続けるのはまずいだろ」
「あー……うん……だよね」
美也子はペンケースに目を落とし、少し曖昧に頷いた。なんとなくピンと来る。100均で買った、と言われても納得してしまいそうな安いペンケースに見えるが――もしかして、とても思い入れのある品だったりするのだろうか?
誰かのプレゼント――にしては、粗悪な品に見える。いや、三年もったのだから見た目よりは高いものだったのかもしれないが。
「もしかして、買い換えたくない理由があるとか?」
俺が尋ねると、まあね、と彼女は苦笑した。
「本当はずっとこれ、使ってたかったんだよね。だって……」
そこまで言いかけて、彼女は俯いた。腐女子なんかブスばっかりだろ、なんて偏見を言ってくる友人もいるがそんなことはない。美也子は眼鏡をかけてはいるものの、少し大人しい印象なだけの可愛い女の子だ。気も利くし、素直だし、何より笑った顔が最高に眩しい。まあ惚れた弱味がないとは言わないが――元々はBLが苦手だった俺の意識が変わるくらいには良い奴だったのだ、と言っておこう。
付き合って三年、未だに清い関係である。個人的にはわりと真面目に結婚も考えていたりする相手。なんといっても、俺の趣味に理解があるし――美也子と一緒にいて、楽しくなかったことなど一度もない。彼女となら明るい家庭が築けるだろう、という確信が俺にはあった。
「……ペンケース以外にも買ってもいいけど?それか、他のものがいいならそう言えって。な?」
普段の彼女らしくない、言葉に詰まった様子。深くつっつかない方が無難かな、と。そう思って俺が口にすれば。
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