なにもの

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「そういうの、オレもわかるわ。オレもずっと胸の中に穴があるように気がすんねんな。なにしたってその穴は埋まらなくて、ずっと空虚のまんま。」 何も言わない俺を気にせず、五所川原は続ける。 「けどようやくその穴を埋める方法を最近見つけてん。お前もさ、なんにもない自分を受け入れたほうがいいで。」 なんにもない自分を受け入れるなんて、できるわけがないと思った。 昔は、なにかに、なんにでもなれる気がした。 でも、今ではなんにでもなれない気がした。 「受け入れて、その穴を埋める方法を探すねん。空っぽってことはさ、なんでも詰め込めるってことやろ?」 「あんたは、なにものかになれてるのか?」 俺の疑問に、五所川原は自信をもってはっきりと断言する。 「ああ。オレはなにものかになってる。ちょっとずつやけどな。」 俺と同じような悩みを抱えていた五所川原は、なにものかになっているようだった。 その声は晴れ晴れとしていて、もしかしたら俺も五所川原と同じようになにものかに なれるかもしれない、そんな淡い希望が、俺のなかに生まれるのを感じた。 「あんたの方法ってなんだったんだ?」 「ん?ここからでれたら教えてやるわ。」 きっと扉の向こうで五所川原がしたり顔をしているのだろう。 事実五所川原のことを、俺は知りたくなっていた。 そうすれば、俺の穴を埋める方法がわかる気がした。
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