Chocolate

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「これどうするの? 誰にあげるの?」 「……えーと、ひ、日向」  姉の性格上、口を噤んでも口を開くまで追求されるのは目に見えていたので、雪羽は渋々といった態で小さく名前を紡ぐ。  すると鞠子は眠たげな眼差しを一転し、目を見開き驚きをあらわにした。その表情の変化は驚きよりも驚愕の方がしっくり来るなと、雪羽は重たいため息を吐きながら思った。 「ひゅうがって、あんたと同じ一年の葛原日向(くずはらひゅうが)? なんであんたがあの男にチョコレートなんか作ってんの? あいつは黙ってても腐る程チョコもらうわよ」 「わ、わかってるよ。でもあ、あいつが欲しいって言うから」  驚きで上擦っている鞠子の口から出た言葉に、自然と雪羽の口が引き結ばれる。葛原日向という男は、雪羽から見ても同じ年齢とは思えないほど大人びていて男前で、学年問わず女子達から人気がある。  男から見てもその作りの整った顔は、嫉妬を通り越して羨望の眼差しを向けてしまうほどだった。雪羽のように背も低く、顔も平凡でなんの取り柄もない人間からすると雲の上にいる存在のような人、だった。 「その地獄絵図みたいなのを本気であげるの?」 「形悪いけど、味は悪くねぇよっ」  ムッとして顔をしかめる雪羽を尻目に、いつの間にか自分の横に立ち、チョコレートを見下ろしていた鞠子が苦々しい顔でそれを指差している。  確かに型を取っていないのでそれは丸くも四角くもない。溶けかけたスライムのような、いびつなチョコレートだと雪羽自身も思っていた。けれど他人に指摘されると少しばかり腹立たしく思える。  一番小さく形の悪いものを摘み鞠子に差し出すと、彼女は恐る恐ると言った様子でそれを手のひらで受け取り口に運んだ。しかしチョコレートを口に入れてしばらくすると、目を丸くして瞬きを繰り返した。 「あ、ホントだ。美味しいこれ。ナッツとかドライフルーツ入ってる」 「それ以上は食うなっ」
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