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二、三個更に摘んで食べ始めた鞠子の手を雪羽は慌てて止める。この調子では目の前のチョコレートが、自分の努力の結晶が姉の腹に収まってしまう。
「ねぇ、あんた達ってほんとに付き合ってるの?」
冷えて固まったチョコレートを小さな箱にそそくさと詰めていた雪羽の手が、鞠子の一言で止まる。しかし返事をしかねて身動きさえも出来ずにいる雪羽の反応に、長いため息を吐き出した鞠子が肩をすくめた。
「うちの高校一の男前が、よりによってあんたを選ぶとはねぇ。姉として同情すら感じるわ。女子から虐められてないの? なんかされたらあたしに言いなよ」
見下ろされる視線を感じてちらりと雪羽が視線を持ち上げると、腕組みをした鞠子が小さく首を傾げる。
平凡な弟のコンプレックスでもある平凡ではない姉。背も高く目鼻立ちがはっきりとした美人。性格もサバサバとして男気にも溢れている。しかし小さい頃から姉はいつでも弟の味方であった。
「虐められてはねぇよ。たまに性格きっつい女子もいるけど、一応俺も男だし」
「ふむ、否定もないってことはやっぱり付き合ってるんだ」
「悪いかよ」
長い髪をかき上げながら目を瞬かせた鞠子は、ほんの少し拗ねたような顔をする弟をじっと見つめた。確かに雪羽は一見するとそう目立つ存在ではないが、明るい性格と勝気で素直で優しいところが魅力であると鞠子は思っている。実際にそれゆえ昔から上辺ではない友人にも恵まれていた。
男前であるが、気難しいと評判の葛原日向が振り向くには充分な要素はあるとも思えた。この可愛い雪羽を独占したくなる気持ちは鞠子にもよくわかる。日向などにくれてやるには惜しいと、正直言えば今そう思ってさえいる。
「別に悪くはないけど、嫌になったら即行で振ってやるのよ」
「なんだそれ」
本音で言ったつもりの鞠子だったが、それを冗談で受け止めたらしい雪羽は吹き出すようにして笑う。いつも雪羽はくしゃりと表情を和らげて至極楽しそうな笑顔を浮かべる。この世界で一番可愛い弟をやはりくれてやるのは惜しいと鞠子は改めて思った。
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