Days with you

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「鞠子は突っ走りすぎなんだよ。どんだけ雪羽に苦労かけんだよ」 「うるさいわね! あんただって必死だったくせに!」 「当たり前だろう!」 「ちょっと! なんで今度は二人が喧嘩するんだよ!」  熊谷が至極真面目な顔をして語ったにもかかわらず、二人の言い争いが始まる。それが自分自身のことであるために、雪羽は身の置き所がない気分にさせられた。目の前では長いため息をまた吐き出され、雪羽を取り合いするような言葉が飛び交う。 「やっぱりあんたに雪羽はあげない!」 「うるせぇ! 雪羽は俺のもんだ!」 「黙りな小童!」 「ババァかよ」 「あー! もう! 姉ちゃんも日向も落ち着けよ!」  にらみ合ってお互いの襟首を掴んだ二人のあいだに、雪羽は勢いよく割って入った。けれど一瞬ぴたりと止まった二人だったが、すぐにまた顔を突き合わせてにらみ合う。そして今度は二人いっぺんに雪羽を抱きしめる。その勢いに思わず雪羽の悲鳴が上がった。 「神谷弟、気苦労が絶えないな」 「先生! そこで達観しないで!」  ぎゅうぎゅうと鞠子に頭を抱きしめられ、引き寄せるように日向に腰を抱きしめられる。背が高い姉も体格のいい恋人も振り払えず、雪羽は大きなため息を吐き出した。この子供みたいな独占欲。決して嫌ではないけれど、ひどく振り回されている気になる。 「あたしの雪羽に気安く触るな!」 「あぁ? 俺のだって言ってんだろ」 「全然聞こえませーん!」 「老化で耳遠くなったんじゃねぇの?」 「はあ?」  ああでもないこうでもないと、そのあと延々と三十分くらいは二人の言い争いは続いた。けれど我慢の限界を迎えた雪羽の「嫌いになるからな」の一言で、日向も鞠子も電池を抜いたおもちゃのように言葉を止める。ふて腐れる雪羽のご機嫌取りは丸二日ほど費やされた。
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