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押し負かされるような形で滝川はぐっと言葉を飲み込んだ。人の好さそうな顔立ちをした滝川は昔から硬派で真面目。
女の子といい加減な付き合いをしたことがないのを雪羽はよく知っている。ただ少しばかり女の子を相手にすると人見知りを発揮するところがあった。だから思わず雪羽は心配げな眼差しを滝川に向けてしまう。
「心配すんなって、大丈夫だって。俺も知ってるけど悪い子たちじゃない」
「ああ、うん。そうだよな。みんないい子そうだし」
「そんなことより、俺に集中しろ」
「ちょ、自分の家だからって自由すぎ!」
後ろから回した腕に力を込めて日向は雪羽を抱きしめる。なだめるように寄せられていた頬が首筋に触れて雪羽は肩を跳ね上げた。身体をよじって逃れようとするものの、回された腕は離れていかなくて、さらにきつく抱きしめられて耳の後ろにキスをされる。
無防備な部分に触れられると、雪羽の顔は一気に赤く染まった。
「ちょっと、お兄ちゃん。ここでやらしいコトしたらぶっ飛ばすからね」
「別に変なことしてねぇだろ。スキンシップだよ」
「そんなこと言って雪羽さん真っ赤じゃない」
隣に座っていた海玲が眉をひそめて日向を睨む。けれど悪びれる様子も見せずに日向は肩をすくめた。そのやり取りに余計に雪羽は恥ずかしさが増した。
「お前は恋人に三年も禁欲を強いる悪魔だからな」
「お兄ちゃんの貞操観念が緩いのよ! 時也さん社会人だし、私まだ高校生になったばかりなんだから当たり前でしょ」
「別に恋人同士なんだから、犯罪者みたいに言うなよ。トキが可哀想じゃねぇか」
呆れたように息をついた日向は、ムッと頬を膨らませる海玲の後ろでニコニコ笑っている男へ視線を向ける。その視線の先をつられるように見た雪羽は、穏やかな眼差しと目が合ってしまい思わずへらりと笑った。
見るからに大人しそうなその人は、海玲の彼氏でありはとこでもある時也。今年二十四になった社会人三年目で、今年の春頃から海玲と付き合っているが、キス止まりでその先はお預けになっている。けれど本人はそこまで気にしている素振りはない。
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