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「女の子なんだし、そのくらいの気持ちを持っているほうが安心できるよ」
そんなことをやんわり笑って言えるくらい時也は落ち着いた雰囲気を持っていた。日向と比べるとまるで真逆なタイプ。しかし顔立ちはさすが親戚なだけあってどことなく似ていた。海玲はハーフの母親似だが、日向はクオーターの父親によく似ている。
時也に初めて会った時、雪羽はもう少し大人になった日向を想像した。
「三年間その考えが続くのか見物だな」
「日向は酷いなぁ」
のほほんと笑った時也に日向は大げさに息を吐く。けれどそれ以上は文句を言うことなく視線を雪羽に落とした。その視線を受けて、雪羽は不思議そうに首を傾げる。
「俺はそんな暢気にしていられねぇ。……雪羽、部屋に行くぞ」
「えっ? なんで!」
「その理由をいまここで俺に話して欲しいのか?」
「そ、それは」
しどろもどろになる雪羽を見つめて、日向は指先を顎にかける。その手で上を向かされてその先を悟った雪羽は、慌てて目の前に迫る顔を押しのけた。そして逃げ出すように膝の上からも飛び降りる。
「逃げんな」
「ひゅ、日向がいきなりしようとするから!」
「雪羽、俺は逃げられると追いかけたくなる性分なんだよ」
「わぁっ! ちょっ、日向っ!」
一気に間合いを詰めたかと思えば、逃げを打つ雪羽の腕を掴んで引き寄せると、おもむろに腰に腕を回し抱え上げた。小脇に抱えられた雪羽はジタバタともがくが、腕に力を込められるとさらに逃げられなくなる。
「悪いけど、適当に遊んでてくれ」
呆気にとられている周りの空気など微塵も読まずに、日向は雪羽を抱えたままリビングを出て行く。途中でミリヤが目を丸くして声をかけてきたが、それも適当にあしらい二階にある自分の部屋へと向かっていく。
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