怪しい。

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「お前!熱すぎるんだよ!お茶もまともに淹れられないのか!?」 「ご、ごめんなさい!」 「湯飲み割っちまっただろうが!」 「ごめんなさい!」 どうやら、旦那は他人にも暴言を吐くようだ。 慌てた様子の女が謝ると、何かが倒れた音がした。 __ガタンッ! 「きゃっ!」 「俺をイラつかせて楽しいか!?」 「ごめんなさい!」 例え不倫相手でも、暴力を振るわれているのに無視するわけにはいかない。 私は部屋から飛び出すと、リビングに飛び込む。そして倒れている女の前に、庇うように仁王立ちした。 「やめて!」 「……お前」 すると、驚いた顔の旦那は拳を振り上げたまま固まっている。その隙に、倒れている女を立たせようと振り返る。 「……え」 しかし、女の顔を見て今度は私が固まった。 細長い瞳。小さな鼻。ボテッとした唇。長い黒髪。 __女は私と同じ顔をしていた。 「……何で」 呆然と立ち尽くす私に、ホッとした顔をした女はそそくさとリビングから出て行く。 すると女の下敷きになっていた、一冊のパンフレットが目に入る。
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