覚えていなくても

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 僕たちは久しぶりに家で過ごすことにした。保加の人がいないところはとても神聖に感じられた。狭くて何もない部屋でもいい。古くたっていい。彼女がいればどんなところでもいい。  たくさんの人がいるところにいくのは精神的にも肉体的にも疲れる。彼女も同じなのだろう。ソファに座り、音楽を聴いているうちに寝てしまったようだ。寝ている彼女の髪をどけ、寝顔を覗きこむ。安らかで、すぐにいなくなってしまうような儚さを感じさせた。彼女の頭を撫でると彼女はむくりと起き上がった。 「どうかしたの?」 「いや、ただ君の寝顔を見ていただけだよ。」 彼女は考え込むような仕草を見せ、とたんにふわっとした笑顔を浮かべた。 「ありがとう。」 「お礼を言われるようなことはしていないよ。」 「私があなたを助けたから恩返しのためにやってくれているのかもしれないけど、とても嬉しい。」 彼女は膝をつき、頭を下げた。 「もし迷惑じゃなければこれからもよろしくお願いします。」 僕は彼女を抱きしめ、耳元でささやく。 「だから迷惑じゃないって。」  顔を見合わせると、自分が自分じゃなくなる気がした。彼女は目をつむり、僕を待っている。彼女の唇は柔らかった。終わったあとはしばらくまともに会話ができなかった。
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