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この日僕は家の中で過ごした。どこか行こうとしても、記憶がない自分にはどうもすることはできない。とりあえず家にあった本を読んでみることにした。ありきたりな文芸書だった。「最近の犯罪にどう対応すればいいのか」見たいなことを長々と書いてあった。退屈しのぎとして見ていた。彼女はどこかに行く用事があるらしく朝早く出ていってしまった。
「とりあえず家のなかを見てみますか。」
一人でしゃべるのは何か悲しい。やはり過去と今の自分は変わっていないのだ。
まず探したのは彼女が寝ている部屋だった。あるとすればそこだろうと踏んでいた。果たして何もなかった。すべての部屋を廻ったが一つとして得られるものはなかった。ソファに寝転びながら考える。部屋全部に生活感はあるのに過去に繋がるものがひとつもない。何か妙だ。
突然玄関の鍵が外れる音がする。足音は彼女のように軽くはない。これは誰だ?
まっすぐにリビングに来たのは黒い覆面を被った男だった。全身黒い服に身を包み、目が開いた覆面からこちらを睨み付けるように見ている。その手にはナイフが握られていた。
「何で僕の家に来た?」
そう尋ねた瞬間、ナイフが胸に入ってくる。間一髪かわしたが、こんな偶然何度も起こるはずがない。 またナイフが僕の上に降ってくる。もう間に合わない。
「待って!!」
声の方を見ると彼女がいた。
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